2017・待つ/インタビュー:大石継太

大石継太 ひたむきに前向きに

大石継太 ”戦場のピクニック”

<photo 仲野慶吾>


  このサイトで大石継太に取材したのは、2007年、ちょうど10年前だ。
過去のインタビューはこちら

そこで、スタジオ時代の話や蜷川から得たことなどをかなりの分量聞いている。10年ぶりに、大石に取材をしたら、あの頃と芝居に対する考え方がまったくブレていなくて、驚いた。
 蜷川幸雄の芝居を表す言葉は? と聞くと、大石はこう答えた。
「蜷川さんの芝居は“清潔”なんですよね。芝居や役への向き合い方が“真摯”で、それが“清潔感”につながる。 ……あ、これ、前のインタビューでも言いましたね。このフレーズが気に入っているんだろうなって思ったでしょ?(笑)。でもそれが一番、蜷川さんの演劇を端的に表している気がするんです」
 気に入っているんだなってことよりも、10年経ってもちゃんと護っていることこそ、“真摯さ”を体現しているではないかと思う。
「年とって、いつまでも清潔なのもいかがなものかと思いますけども。56歳にもなって清潔とかピュアとかってね(笑)。でも、いまだに、汚れっていうか悪は、ぼくの苦手な分野なんですけれどね。今回、『12人の怒れる男』で演じる3号は、これまでのぼくのイメージとは違う役なので、自分的には難しいし、ハードルが高く、そこが勝負のしどころです。この役は、14年前の『2003・待つ』でもやりました。そのときも、ふだん、キャスティングされるタイプの役ではなくて新鮮でした。当時の記憶はほとんどないけれど、キャスティングは参加者の話し合いで決めたんじゃないかなあ。結果、うまくできたかも覚えてないんですが、今回は、そのときよりもどこか進歩していればいいなあと思っています」


 『12人の怒れる男』は、殺人事件の陪審員に選ばれた12人が、最初は当然有罪と思われた容疑者を、次第に、無罪なのではないか?という思いに変わっていく。当然のように信じていたことがじつはそうではないということを、論理立てて検証していく心理ゲームのような面白さがある芝居だ。大石演じる3号は、ほかの人が考えを変えていくなか最後まで有罪を主張する。人当たりがよいとか軽やかな印象の役が多い大石には、たしかに珍しく思える役だ。
「面白いといえば面白いですけど、大変ですね。稽古時間も少ないし、思うようには進んでないですね。岡田ちゃん(岡田正)とふたりでやる『逆に14歳』はまだ、ふたりだけなので、稽古はどこででもできますし、まあ順調ですが、『12人~』と、全体をどういう構成にするか、各々、意見があり、言った言わないとか、聞いてないとか、まとめるのが大変で。一家言あるおじさんたちがいっぱいいるから、仕方ないですねえ(笑)」
 それでも、あえて演出家をおかず、すべて出演者全員で、話し合って方向性を決めていくことが、この公演の意義だ。


「『待つ』 は、みんなでああだこうだ言いながら芝居をつくっていく “過程” を大事にする作品です。昔も、まさに、こんなふうに、みんなで文句言いながらつくっていましたし、小道具なり衣裳なりも持ち出ししていたんですよ。だから、『12人~』は、今回、かなりダイジェスト版になっているけれど、ほんとうはこれだけで1本やりたいくらいです。不満も出るし、みんな年取ったなあと思いながらも、芝居に向き合う姿勢は昔とかわらず、とても楽しいです」


 この公演で「ある種の“決着”をつけたいと思っています」と言う大石。この公演企画を言い出したのも大石だから、思いは強い。
「これまでずっと “蜷川幸雄のところの大石継太” であって、他のプロデュース公演に参加しても、いつも、そういうふうに思われていたと思うんです。蜷川さんのところで学ばせてもらったものは、これからもきっと変わらないでしょう。でも、どこか、決別…じゃないですけど、役者として、一歩前進したい気持ちもあります。ここまで起用し続けてくれた蜷川さんには言葉にならないくらい感謝しているけれど、もう一回、自分で仕切り直さないといけないと思っています。何はどうあれ、きっと、自分では意識していなくても、どこかで蜷川幸雄の何かが僕の芝居にはきっと残っていくだろうし、それがほかの現場でもいいふうに出たら、蜷川さんは喜んでくれるんじゃないかと思う」

(写真/宮川舞子)”逆に14歳”より

そういうなかで、『逆に14歳』はチャレンジ作だ。
「年老いていくことに対して、とても前向きになれる作品です。今回、はじめて共演した、さいたまゴールド・シアターの方々を見ても思うけれど、ちゃんときちんと年齢を重ねていくことは悪くない。ぼくも、年とったなあと思うけれど、それをプラスにしていきたいですね」
 穏やかにしているけれどでも、大石継太のなかには何かが蠢いているのを感じる。それは例えば、今回の、装置に関しての回答からも伝わってきた。
「これまで、蜷川さんが使ってきた装置を集めたので、お客さんが、あの公演で使ったものだといろいろ思い出してくださるかもしれないですね。ぼくらにとっては、これからは、こういうパッケージの中で芝居するこことはもうないと思っています」
 陽気な役が多いけれど、きっと根っから楽天的なわけではないのだろう(あくまで想像)。舞台上で全力で笑っているから、それが場の空気を変える力になるのだ。『戦場のピクニック』のクライマックスで、出演者全員が、笑顔で倒れていく。そのときの大石継太の笑顔も強烈に印象的だ。


(写真/宮川舞子)”戦場のピクニック”より

 今回のプロジェクトを進めるにあたって、大石は岡田正と「前向きに、前向きに」と言い続けてきたそうだ。取材中もとはにかみ気味な表情で呪文のように唱えていた。
「前向き、前向き、前向きに」。


取材・文/木俣冬
デザイン/田淵英奈