旅の記録~蜷川シェイクスピアの風景を求めて “恋の骨折り損” 編
1.『恋の骨折り損』の庭園
ストラットフォード・アポン・エイヴォン
戯曲では舞台は、スペインとフランスの間のフランス領なのだが、
蜷川幸雄は、装置打ち合わせで、装置家・中越司に「ストラットフォードの柳!」と言ったそうだ。
出来上がった舞台を見て、ストラットフォード~の風景を見たことがある人は皆、ああ、あそこだ!とわかったようだ。装置は、床面は芝生のように起毛した素材で覆われ、背後には巨大な柳が繁り、その向こうはかすかに河が流れているような雰囲気になっていた。色はグレーだが、照明で透明感のある緑になっていた。
私も、06年RSC主催のコンプリート・ワークス(1年かけてシェイクスピア全37作を上演するビッグイベント)での『タイタス・アンドロニカス』公演を観に行って、ロイヤル・シェイクスピア・シアター(RST)の裏側をのんびり流れるエイヴォン河沿いに群生する巨大な柳の木を見ていたので、なつかしい気持ちになった。
「柳腰」といえば、か細いイメージに使用する言葉の通り、日本の柳は、ひょろりと弱々しい。けれど、西欧の柳は、幹も葉もワイルドだ。
06年に見た風景をもう一度見たくなって、『コリオレイナス』バービカン公演でロンドンに行ったついでに、日帰りでストラットフォード~に行ってみた(ロンドン・メリルボーン駅から2時間強で行ける)。
なつかしのRSTはコンプリート・ワークス終了後改装に入っていたが、隣接するスワン・シアターの前面にある芝生の庭で、『 恋の骨折り損 』にそっくりな光景に出会ってしまった。3人の男子(『骨折り』は4人だけど)が、川沿いの芝生の上でくつろいでいたのだ。
天候に恵まれないイギリスでは、春から初夏にかけての短い期間、住民が太陽を楽しむようだ。川沿いは本当にのどかで気持ちよい。寝そべってうたたねしるのにはちょうど良い場所だ。だから、この街に週末遊びに来る人達は多い。
週末、散歩や昼寝、そして芝居を観る…という、ただそれだけの街。ショッピングなんかもできるがとりたてて貴重なショ?があるわけでもない。でも、むしろそれこそがなんだか豊かな場所だなあと思った。