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インタビュー

中越 司
装置家・中越司の仕事  カリギュラ編

蜷川舞台の中で、非常に重要な存在である装置。
時にリアルに、時に抽象的に。
それにはいつも深い意味があり、
それに包まれ、突き動かされて、
俳優達は、より役の息づかいになっていく。
観客達は、箱庭のようにきめ細かに創られた異空間に、
ひととき酔いしれる。

これは、
公演ごとに建ち、あっという間に消えてしまう幻のような

装置の記憶を残す試み。

 





[プロフィール]
中越 司 Tsukasa Nakagoshi

  • 1987年ニナガワ・スタジオ公演『虹のバクテリア』以降、数々の蜷川演出作品の舞台美術を手がける。蜷川幸雄演出『間違いの喜劇』『タイタス・アンドロニカス』『オレステス』『コリオレイナス』『ひばり』『恋の骨折り損』『藪原検校』『お気に召すまま』『エレンディラ』『オセロー』『カリギュラ』他、鵜山仁演出『リア王』『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』『守銭奴』、川村毅演出『ハムレットクローン』、ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出『カメレオンズ・リップ』『労働者M』、宮本亜門演出『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』など。1995、2005、06年読売演劇大賞優秀スタッフ賞受賞。
    ◎蜷川との出会いのエピソードは、再録ニナガワ・スタジオの人々をご覧ください。





[仕事の流れ 『カリギュラ』の場合]

【稽古2週間くらい前】

 装置打ち合わせ→図面作成(「書き抜き」という線画のものと、「道具帖」と言う色をつけたものの2種類ある。大道具スタッフとの情報共有のため)→稽古場用の装置の準備(最近の蜷川組はこれくらいのスケジュールだが、もっと早くから打ち合わせるプロジェクトもある。通常、装置模型を精巧に作るが、最近の蜷川組のやり方だと、稽古場に装置があるので、模型自体は簡略化されている)。

【稽古はじめ】

 稽古場用装置の完成(五面の壁に鏡。色のついた角材をネオン管の代わりに使用)→稽古しながら変更(たとえば、当初、鏡は全面ではなかったが、全面に変更。ネオン管の種類を業者に確認して、使用しやすいものが選ばれた。壁に近づきすぎると発火する危険もあるため、安全なものを選ぶ。ネオンの色の選択と組み合わせも、照明家と相談しながら考える)

【本番2週間前】

 第一回発注(本番用装置の材料を大道具業者と打ち合わせる)

【本番10日前】

 第二回発注(第一回以降に追加で発生したものを発注。今回は第一回から二回の間に、シャンデリアを吊す予定だったが、ネオン管に変更になった。ラストでカリギュラが割る鏡の素材やはめ込み方を稽古場で実験して確定。ケレアの家には絵を飾ることになり、絵柄を決め、発注。など)


大阪仕込みの様子

【仕込み】

 さらに追加、変更などを経て、劇場に入り、装置を建て込む(この時点で、ケレアの家の壁が重量オーバーで、上部バトンから吊り下げることができないことが判明。急遽ダイエット。徹夜作業になった)

【舞台稽古開始】

 稽古をしながらの変更に対応(カリギュラの部屋に稽古中に置かれていたローリング・ストーンズのシンボルを象ったライトを蜷川の意向で置くことになり、シンメトリーにするため、ストーンズ・ライトとバランスの良いものを探し設置。など)

【ゲネ】

ゲネ直前まで作業が続くこともある。

【本番】

【千秋楽】

装置のばらし

【地方公演】

劇場が変わるとサイズが変わったりするので、その劇場ごとに図面をひき、一部変更したりする。大阪BLAVA!では、上手下手の前面に黒い柱をプラスしている。

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 舞台を彩ったネオン管は330本だった。
 
 ネオン管の裏側

戯曲には〈装置に重要性はない。「ローマ風」のジャンル以外、すべてが許されている。第一、第三、第四幕は、皇帝の宮殿の一室で行われる。そこには鏡(人の等身大の大きさの鏡)、銅鑼、椅子兼用のベッドのあることが必要である。第二幕はケレアの食堂〉とだけ記されている(岩切正一郎訳による上演台本より)。

 「『カリギュラ』の装置を蜷川さんと打ち合わせた時、“哲学的な内容の戯曲を、言語でない見せ方をしたい”と言われたんです」

――すると、登場人物の心象風景の変化をネオン管の色で見せたのは、当初から考えていたことなのですか?
「なんとなくは思っていたけど、具体化したのは、稽古をしながらです。照明家の大島さんとも相談しながら色を決めていきました」

――ネオン、きれいでしたね。フランシス・ジョンソンの「アルベール・カミュ あるいは反抗心」という論文(「革命か反抗かーカミュ=サルトル論争―」佐藤朔訳 新潮文庫)にあるカミュの「知的透明性」とかいう感じも表現されていた気がします。
「それは、偶然だと思うけど(笑)。演出家は、主演が若い小栗旬君だからということもあって、若者の多い街・渋谷をイメージしたようです。当然インパクトも狙って。サイバーパンクとでも言うような新世界な感じを出そうと思いました。それでいて少し手作りふうな雰囲気もあるような」

――鏡は指定では「等身大」ですが。
「戯曲を読んで、鏡に映る自分とカリギュラが対峙する話だから、鏡で囲みたいと思いました。鏡張りの装置は今までもやっていますが、今回のように五面にしたのははじめてです。面が多いほうが球体に近くなって映りがよくなります。最初は、全面鏡ではなくて、各ドアに鏡を張っていましたが、全部鏡で埋めたいということになって、稽古場で全部張りました」
――鏡も限られた経費の中から、効果的な質感のものを選ばれているんですよね。
「『マクベス』(00年、01年)などでも使っている鏡を使っています」


 鏡の壁ができました


――ラストの鏡を割るところも稽古場で演出部スタッフが試行錯誤されていました。
「毎回、全面割れると経費的に負担が大きいので、中央の鏡だけ9枚の正方形の鏡のはめ込みにして、公演のたびに割れたものだけ取り替えるようにしました。厚すぎると割れないし、薄すぎるとたわんでしまうので、ほどよい厚みを探しました。割れた時に、小栗君のほうに破片が飛ばないように、鏡の後ろは板で補強しないで、椅子が突き抜けるようにしてあります」

――ストーンズのライトがかわいいですね。
「蜷川さんの私物です。稽古中、蜷川さんがふと思いついて家からもってきたものを飾ることになりました。舞台稽古でもやっぱり使おうということになりましたが、対になるライトを探すのが大変だったんですよ。演出助手の大場雅子と藤田俊太郎がネットで探してきてくれました。なかなかネオンライトで、いいデザインや大きさのものがなくて。やっとみつけたあれは、マリファナの葉の形なんですよ」

――『エレンディラ』(07年)の時も、蜷川さんはお家から金色の天使の像をもってきていらっしゃいましたね。
「それをもとに大きな天使像を作りました。僕がくれたものだって蜷川さんは言うけど、記憶にないんですよ(笑)」

――ケレアの家の壁がスチロールだって聞いたのですが、すごくリアルに見えます。
「最初はコンクリだったんだけど重くて吊れないから、ベニアとスチロールにしました。それでも重量オーバーで徹夜で削ったんですよ」

――ケレア家のあの絵はなんですか?
「洋書から選びました。あの天使みたい人たちがお墓にいる絵なんですけど、お墓はカットして使いました。上手側に人物が偏っていますが、ちょうど、その角にケレアが立つシーンがあったんです。天使達がケレアにお願いしてるみたいな感じに見えておもしろかったですよ(笑)」

――ケレアの家の壁にしても絵にしても稽古しながら変更されていきます。
時間との闘いですよね。
「『身毒丸』(99年)以降そうなりましたね。贅沢な作り方をさせて頂いていますから、蜷川さんとも「幸せだよね」「…ですよね」って言っています」

――最近の傾向って何かありますか?
「『オセロー』『カリギュラ』は、汚しをあまりかけない装置になっています。『間違いの喜劇』(06年)の時なんかは汚しをすごくかけましたよね。『オセロー』『カリギュラ』は無機質というかアブストラクトを目指しました。『オセロー』は中心の位置を少しずらしたり、階段もずらして配置している、シンメトリーが多い蜷川作品では珍しい装置です」

――打ち合わせが稽古はじめの2週間前っていうのは実のところ作業が大変ではないですか?
「そうですねえ……でも、作品が重なっているから仕方ないです。07年は10本(内9本を中越が担当している)だったし、08年もそれくらいあるらしいです。蜷川さんは“全部やれる?”と聞いた後で“他の仕事も受けていいからね”なんて言うんですよ(笑)」

 

 

 

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